「なあユリアン、オスカー・フォン・ロイエンタールが何故ヤン・ウェンリーに魅力を感じるか分かるか?」 「なんですか唐突に?」 司令官執務室に向かって通路を歩いていたユリアンを、待ち構えていたかの如く呼び止めたのは自称きらきら星の高等生命体ポプランであった。 「いやさ、奴はこの俺様には敵わないとは思うが女性にもてるらしいのに、その数多の女性を振りきってまで我が司令官殿に求愛するという変わった人物だろう?」 「どちらがもてるかという事に関しては僕の口からは何も申し上げませんが、提督のことに関してのみ言えば同盟にだってそんな人はたくさんいますよ?」 ユリアンは『そんな人』を脳裏に描きつつ指折り数えてみせるが、ポプランは他に言いたいことがあるらしくまったく気にしていないようだ。 「ところでユリアン、ヤン提督を動物に例えるならなんだと思う?」 「動物、ですか?う〜ん…やっぱり寝ているのがいちばん幸せみたいですからネコですかねえ?」 「そうだろう!若者よ!」 満面の笑みをたたえてユリアンの肩をつかむポプラン。 「じゃあ、ロイエンタール提督の特徴と言ったらなんだ?」 「え?それは…やっぱり金銀妖瞳ですか?」 「そう!それだ!」 「それで?何が言いたいんですか?」 困ったような顔で首を傾げるユリアンに、ポプランは人さし指を立て左右に振って見せる。 「ダメだなユリアン。そんなことじゃあヤン提督には100年経っても敵わないぞ!」 「それは…どっちでもいいですから、答えを教えてくださいよ」 「そうか!教えてほしいか!では教えてしんぜよう!」 ふんぞり返って得意げな顔をするポプランだったが、ユリアンは話を早く終わらせたくて教えてくれと言っているのだ。手にはキャゼルヌに『急ぎでな』と言われたヤンの決裁が必要な書類がある。 「ユリアン、動物で金銀妖瞳が多いのはなんだと思う?」 「…(話の流れから察するに)はあ、ネコですか?」 「そう!そうなんだ!これで分かっただろう?二人ともネコ科なんだ!!だからロイエンタール提督は異種族の女性より、男でも同種族のヤン提督に魅力を感じるんだ!間違いない!」 「…はあ」 ユリアンは相づちとも溜め息ともつかない声を発してあきれた表情になった。 「ロイエンタール提督ネコ説にはまだ理由があるぞ!人の好意は利用するクセに薄情だとか、プライドが高いクセに寂しがりだとかな!」 「ほほう、それは何処の誰のことかな?」 ポプランの得意げな表情が、聞こえてきた冷たい声音に引き攣ったように固まる。背後から感じる冷気は空調の故障ではないだろう。 「ロ、ロイエンタール提督?何故ここに?」 「そんなことは貴様には関係なかろう。それよりひとつ訂正しておく」 「な、なんでしょう〜?」 さっきまでのはしゃぎっぷりは何処へ行ったのやら、さすがのポプランも帝国の双璧の片割れであり、名将と名高いロイエンタールを前にして半涙目で押され気味である。 そんなポプランを腕を組んだ姿勢のまま冷たい表情で見やり、ロイエンタールは鼻で笑った。 「いいか、ヤンはネコじゃない」 「ネコじゃない?」 顔を見合わせるポプランとユリアン。 ロイエンタールは組んでいた腕を解き、びしっと人さし指をポプランに突き付けてひと言。 「あいつはナマケモノだ!」 そう言い捨てると、さっさと踵を返し何処へ行くともなく歩み去っていった。 残されたのはユリアンとポプランの2人。 「なあユリアン…ロイエンタール提督、自分のネコ説は否定しなかったぜ…」 「そうですねえ…」 どちらかというとそっちを否定すべきではなかったのかロイエンタール。 やはり彼は変わっている、とポプランは再度認識した。
おわり。
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