いつもどこか遠いところを見ているような奴だと思った。 一緒にいて馬鹿なことを言い合って笑っていても、何処か遠くて。
お前が気付いていないだけで、お前に近付きたいと思っている奴らはたくさんいるのに。 あまりにお前が遠すぎるから。 遠い星なのに強い光と引力を持っているから。 お前の引力に堕ちて行くか、引力が及ばない遙か彼方からお前に焦がれているかしか選べないんだ。
でも。 お前の引力に惹かれて近付いて行っても、お前自身はいつも遠い遠い何処かを望んでいるから。 誰も。だれも。ダレも。 お前の周囲をまわる衛星にしかなれない。
でも、俺は誰よりもお前に近かっただろう?
知っていたか? 地球に月があるように、俺はお前の傍らに存在できると思っていた。 たとえひとつの惑星になることはできなくても。 月の裏側が地球からは見えないように、俺のすべてをお前に告げられなくても。
お前が此処にはいない誰かを求めていても。
俺は、お前を離すつもりはなかったから。
けれど。 …もう、俺はお前のところには還れないみたいだ。
だから…お前のために願うよ。
どうか神様、あいつの願いを叶えてやってください。 俺は、もう、あいつの傍に還ることができないから。
初めてお前に伸ばした手は、もう二度と届かないけれど。
「ヤン…幸せに…」
俺を呼ぶお前の声は俺だけのものだから。
どうかもう一度だけ呼んで欲しい。
もう、俺の願いはそれだけでいいから…。
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