All Right All Night
−4−
by.朔夏
バスルームを出るとラインハルトは広くもない部屋の中央に置かれた一人掛けのソファに腰掛けて目を閉じていた。肘掛けに肘を突いて指先で顎を支えている。
(眠ってしまったんだろうか?)
常ならば声をかけることも出来るが今のヤンには不可能だった。
しばらく様子を窺ってみるがラインハルトに動く気配は見えない。
湯上がりのヤンは寒気を感じて身体を震わせた。
(やっぱり夜は冷えるなあ……どうしよう?)
そもそも今いる場所は居間のようでベッドらしきものは見えない。ラインハルトの向かいにもうひとつ対になるソファが置かれてはいるが、まさかそこで寝るわけではないだろう。
ヤンは当惑して周囲を見回していた視線をラインハルトに戻した。
太陽の光よりも眩しい金の髪が白い頬を縁取っている。
(睫毛も金色だなあ……それにすごく長い)
これが自分たち自由惑星同盟の目下最大の宿敵であると思えば珍しく他人への興味が沸いてきて、誰もいないのに周囲を見回した後、ヤンは足音を忍ばせてラインハルトに近付いた。
手を伸ばせば届く程の距離でヤンは一度立ち止まった。
ここでラインハルトが目を覚ませばいいと思う気持ちと、もう少し近付いて彼を観察してみたいと思う相反する感情が沸き上がる。
(うん?どうしてそんな風に思うんだ?)
ヤンは眉根を寄せて自問する。
目の前で無防備に眠る美貌の主は、間違いなく自分の友人や多くの仲間を死に追いやった敵将なのだ。それも過去に類を見ないほどに天才的な軍事的才能を誇る人物で。既に帝国軍の中枢は彼の手に治まったも同然と聞く。
つまり、彼は今後の自由惑星同盟を、つまり自分自身を破滅の淵に追い詰める者に他ならない。
(なぜ、私はここにいるんだ?一体、なんのために?)
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