〜初恋はレモンの味〜

by.朔夏



 銀河帝国皇帝、ラインハルト・フォン・ローエングラム。
 宇宙歴799年、実質的な人口や領土の大小はともかく、これまで宇宙を二分する勢力であった自由惑星同盟との永きにわたる闘いに勝利を治め、過去に誰をも為し得なかった宇宙の統一という覇業を成し遂げた偉大なるローエングラム王朝初代皇帝である。
 しかし、今や宇宙のすべての人類の上に君臨する立場となった彼にも、悩みというものは存在していた。
「はああ〜っ…」
 今日もラインハルトは執務室で長い長い溜め息をついている。
 ラインハルトは決裁文書に目を通しながらも、集中できていないことを示すかのように、自らの金の前髪をくしゃくしゃと掻き回している。
 そんなラインハルトを心配して、ヒルダなどは休養してはどうかと言ってきたりもするが、ラインハルト自身には原因が分かっているのだ。そして休養したからと言って、その原因が無くなるわけでもない。
 手に持っていた書類をデスクに投げ、ラインハルトはデスクの一番上の引き出しを開けた。
 取り出したのは1枚の長方形の紙片。
 ラインハルトはそれを食い入るように見つめている。
「…ああ…今日もなんて可憐なんだ…!」
 それは、今をときめく全宇宙一人気のあるアイドルのブロマイドというものだった。
 ラインハルトの目は輝き、頬をうっすらと染めている。
「ああ、俺は宇宙を手に入れたのに、何故お前を手に入れられないんだ!」
 本当ならラインハルトが望めば、どんな人間でも思いのままだろうと思う。
 しかし、そんなことをして手に入れたとしても、本当にラインハルトのことを好きになってくれなければ、かつて姉であるアンネローゼを無理矢理に寵姫にしたフリードリヒ4世と同じ最低の行為をすることになる。
 だが、それ以外の方法でどうすれば彼の人を自分に振り向かせられるのか、これまで色事に無関心だったラインハルトには思いつくことが出来なかった。
 そのため悶々とした日々を送り、溜め息ばかりが増えていくのであった。
 しかし、いつまでもこのままでは皇帝としての執務にも支障が出る。
 それに、日に日に彼の人に逢いたい気持ちが募って来るのだ。
「よし!俺は宇宙を手に入れた!今度はお前を手に入れるために戦ってみせるぞ!見ていてくれ!キルヒアイス!」
 大事なブロマイドに口付け、ラインハルトは椅子を蹴って立ち上がった。
「まずは前進あるのみ!恋愛経験が豊富そうな元帥達に相談するぞ!」
 晴れ晴れとした表情で、斜め上を見上げるラインハルトは、かつてキルヒアイスと共に打倒皇帝を誓った少年の時のようであった。
 興奮のあまり潤んで輝く蒼氷色の瞳は、今は遠い場所にいる彼の人を夢想している。
「待っていろ!ヤンヤン!俺は必ずお前に会いに行くぞ!!」
 ラインハルトの宣言にブロマイドの中のアイドル☆ヤンヤンは頬をピンク色に染めて微笑んだ(ようにラインハルトには見えた)。

 がんばれラインハルト!宇宙一のアイドルを狙っているのは君だけじゃない!    
   

  
      

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